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胃潰瘍の悪性サイクル(malignant cycle)と ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

 5年前2002年から東大で、医学部5年生を教えている。講義の前に、学生の知識レベルを知るためにいくつかの質問を学生にするのだが、学生諸君は、胃癌のボールマン分類、大腸癌の肉眼分類、早期胃癌の肉眼分類などは、結構、わかっている。ESD(粘膜下層剥離術)について答えられる学生もいる。しかし、 なぜか、胃潰瘍の悪性サイクル(malignant cycle)については、ほとんどの学生が答えられない。教科書から省かれてしまっているのかもしれない・・・?!

 胃潰瘍の悪性サイクル(malignant cycle)とは、癌が原因となって繰り返す、胃潰瘍のことである。癌組織のなかには、細胞保護作用の弱いものが多く、胃の中のような、食物を消化する高い酸濃度の中では、癌は消化されやすい。早期胃癌の表面に潰瘍がおこり、癌の一部もしくは大部分が消失する。この際、癌は潰瘍の辺縁に、三日月状や泣き別れ状態でしがみ付いている。そして、潰瘍が治った後に、再び、残った癌が増殖してくる。やがて、癌の部分が大きくなり、細胞保護作用が低下し、また、過酷な胃の環境の中で、潰瘍ができてしまうという繰り返しを、悪性サイクルと呼ぶのである。

 この現象があるので、胃潰瘍の良・悪性の判定には、注意と慎重さが要求される。潰瘍の辺縁から、組織をとって、良悪性の判定をするのであるが、たまたま、胃癌がないところを生検すれば、胃癌を良性潰瘍と誤診する危険性がある。だから、怖いのである。したがって、胃潰瘍を見たら、組織結果が良性であっても、2-3ヵ月後に必ず再検が必要なのである。ここまで、説明すると、学生さんたちは聡明なので、この悪性サイクルの理解なくして、胃潰瘍の診断はできないことを悟る。

 悪性サイクルを繰り返した胃癌は、固有筋層と粘膜の間に瘢痕組織ができて、くっついてしまい、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)やEMR(内視鏡的粘膜切除術)の極めて難しい状態となる。普通は、適応外病変であるのだが、諸般の事情から、きょうは、そんな瘢痕組織付きの胃腫瘍病変の内視鏡切除を試みることとなった。ESDのつもりが、結局HSE+pEMRとなってしまったが、穴をあけずに取りきれたようなので、優、良、可、不可の可ぐらいか・・・。

悪性サイクルの一例:左は早期胃癌分類Ⅲ+Ⅱc、右は潰瘍治癒後、左のわずか19日後の状態。しいて分類するならⅡc型か。分類不能とするのが妥当であろう。